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Profile
株式会社メディヴァ
代表取締役 大石佳能子
大阪府箕面市出身。 幼少時代をニューヨークで過ごす。 大阪大学法学部卒業。 ハーバードMBA。 マッキンゼー・アンド・カンパニーのパートナーを経て、(株)メディヴァを創業。 マッキンゼーではマーケティングと小売業、ヘルスケア部門を担当。 消費者視点での商品・サービスづくりを数多く立ち上げる。 著書に「消費者最優先企業の時代」(共著)、マッキンゼー・クオタリーにマーケティング、ヘルスケア関係の論文多数。 厚生労働省「これからの医業経営の在り方に関する検討会」、厚生労働省「社会保障審議会福祉部会」、日本経済調査会「これからの医療の在り方に関する検討会(大星委員会)」委員。
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医療経済を斬る メディヴァ代表 大石佳能子による連載コラム
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アジア・ヘルスケア会議から日本を顧みる(その1)

今年3月、筆者の前職であるマッキンゼー社がシンガポールで開催した「アジア6カ国
(日本、韓国、中国、シンガポール、イン ド、オーストラリア)ヘルスケア会議」に6カ国
の政府関係者、 病院経営者と民間健康保険提供者とともに出席する機会があった。
そこで見聞きした話を元に、我が国との比較を2回に分けて論じてみたい。

まず第1回目は医療財源について述べる。

アジアと言っても、発展途上国と先進国とで医療制度における最大の課題は異なる。
発展途上にある中国やインドでは大都市においては世界に肩を並べる高度病院がある
一方、地方には十分な医療資源が向けられていないことが最大の課題となっている。
両国とも医療保険制度が整ってはおらず、医療資源の提供者(病院、 診療所等)と支払
い方法(公的医療保険、民間医療保険)をどう育てるかが議論の対象となった。
一方、シンガポールや韓国やオーストラリアは、日本と同様、高齢化社会の到来と疾病
構造の変化(感染症から生活習慣病へ)への対応が最大の課題である。高齢化し、慢性
的な生活習慣病が増加するなかで、急速に膨れ上がる医療費を既存のシステムが払い
きれなくなっているのだ。同様な現象は欧米諸国でも発生しており、全世界的な課題であ
る。しかしながら、課題に対する対応策 は国によって異なっている。

マッキンゼー社の分析によると、高齢化や医療技術の進歩により、今後日本で必要となる
医療費総額は、2020年には62兆円、35年には92兆円と政府の予測を上回るそうだ。この
金額を現在と同じ財源に頼るとすると、収入増を見込んでも20年には19兆円、35年には43
兆円が足らなくなるとのこと。この差分を税金で埋めるか民 間保険で埋めるかは、議論が
必要なところではある。

日本の医療制度は、世界一の長寿国を作るという快挙を成し遂げたが、時代の変化に万全
に対応している訳ではなく、より広い解の範囲を求める必要があるのではないだろうか。その
中で、より割り切って施策を展開しているアジアの諸国に学ぶことも多いと思われる。日本の
医療制度は高齢化と疾病構造の変化による医療費高騰に対し、診療報酬の切り下げや病床
の規制、廃止によって、主として「どうやって医療費を下げるか」という視点のみで対応してお
り、もう一つの視点である「どうやって支払能力を上げるか」ということについては殆ど検討がさ
れていない。 民間保険の導入を含めた「支払い能力の向上」が論じられると必ず、アメリカの
例が引かれて、「不平等」である、もしくは「弱者切り捨て」だと言われ、それ以上の検討がな
されない。

しかしシンガポール、韓国、オーストラリアでは「どうやって支払能力を上げるか」ということに
ついても検討が行われている。例えばシンガポールでは、日本と同様どの病院にかかるかは
患者が決めるフリーアクセス制度を採用している。しかし診療報酬が一律に決められ、国内全
ての医療機関が完全な価格統制のもとで医療サービスを提供している日本に対して、病院に
よって価格は異なり、自己負担も存在する。しかしながら、国民にとって必要な医療は提供さ
れる体制が整備されている。

シンガポールでは、医療費は3つの制度により財源が提供される。Medifundというのが低所得
層への保障に当てられ、所得に関わらず必要なケアを受けることができる。Medishieldは不測
の事態に備えた保険的な制度で、任意加入で、保険料を払うことで、入院時にはその費用が
一部保険でまかなわれる。民間保険が提供している。これに加え、Medisaveという貯蓄制度が
あり、月収の6~8%が医療が必要な時に使える費用として貯められる。年金の一部分であるが、
いざというときにはこれで医療費を払うことができ、使わなければそのまま年金として積み立て
られる。もしも国が保障するレベルより高いサービスを求めるのであれば、Medisaveからお金を
引き出して、それに充てる仕組みである。

一方、国が保証するレベルの医療は高い水準に達しているため、所得階層が高いにも関わらず、
それで十分とする者もいる。この場合は、低所得階層よりも高額な医療費が請求され、支払い
能力の低い者を支援する原資に回される。また多くのシンガポール人は民間の任意の医療保険
にも加入している。

もちろんこの制度は、国による個人所得の把握が完全に行われているシンガポールならではの
仕組みではあるが、低所得階層にも十分な医療を提供しつつ、病院の経営努力、個人の選択も
活かしつつ、国からの財源だけではなく、個人の貯蓄からの歳出等、複数の「ポケット」をもつと
いう発想の転換は、大いに参考になる。この仕組みにより、シンガポールでは年間医療費が
GDPの4%に上るにも関わらず、国家の歳出はGDPの1.2%にしか過ぎない。日本はシンガ
ポールとは諸事情が違うため、同じ制度を導入することは困難であろうが、このような方法も
一つの参考になるのではないだろうか。

次回は医療提供者(病院等)について述べさせていただく。

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