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★ 少子高齢化社会の多様な暮らしを支えるコミュニティ資源としての「注目」医療サービス
ファミリーメンタルクリニックまつたに
オウム事件が終結した時、数多くの子どもたちがサティアンから施設に保護された。この時、1~2年生はすぐ「施設が普通の世界」であることを納得した。3~4年生は「サティアンと施設と、どちらの価値観が正しいか」と議論を挑んできた。5~6年生は「自分たちは普通の社会では生きて行けないのでサティアンに戻してほしい」と懇願した。「人格の基本は10歳までで決まる」、という学説もあり、それを形作るのが家族を含めた「環境」である。『ファミリーメンタルクリニックまつたに』は家族の成長を支えながら、子どものメンタル疾患の治療を目指す。
『ファミリーメンタルクリニックまつたに』にはプレイルームがある。25坪程のクリニックの3分の1近くを占める部屋には、タックルバッグ、マット、イルカやジンベイ鮫の大きなぬいぐるみなどが置いてあり、子どもが乗ったり、ぶつかったり、蹴ったり、抱えたりすることが出来る。ここは子どもにとっては遊びながら自由に感情を表現する「安心」スペースである。プレイルームの壁面にある鏡はマジックミラーになっており、子どもが遊ぶ様子を観察し、治療に活かすことも出来る。
院長の松谷先生は近隣の中核病院の精神科を辞して、同クリニックを昨年5月に開業した。乳幼児期から思春期、青年期までの子どもを対象としたメンタルクリニックである。夜間の外来では、ビジネスマンの不眠、鬱状態を診ることもあるが、主たる患者は子どもとその家族である。
HPにある松谷院長のメッセージを引用すると「現代は大人にとっても子どもにとっても生きにくい世の中ですが、特に子どもにしわよせがいっているようです。子どもたちは様々な症状や問題行動を起こすことにより、自分が行き詰まっていることを周囲の大人達に伝えています」。治療対象はいわゆる「適応障害」と言われる子どもたちである。子どもは、環境との間で適応できない時、自分の内面に対して適応が出来ない時、いわゆる「問題行動」を起こしてしまう。また子育て中のお母さんの受診も多い。「昔からあった『地域』というコミュニティがなくなり、子育て中のお母さんが日常の中で支えられることが少なくなっています」。
子どもは家庭や地域といった「器」の上に乗っている。「器」が安定していれば子どもも安定するが、「器」が揺れると子どもも揺れる。周りが揺れすぎると子どもの方が我慢をして、自分の悩みを溜め込むようになるケースもある。松谷院長の治療方法は、患者である子どものカウンセリングを行うに当たって、「器」である「家庭」や「学校」を巻き込んで、それぞれの役割を整理し、連携することによって子どもにとって安心出来る「器」作りを目指す。
精神疾患の治療には大きく分けて、問診とカウンセリングを中心に据えるケーと診断と薬物を中心に据えるケースがあり、松谷院長は前者に注力している。診察は予約制で、患者とじっくり時間を掛けて対話しながら「今、困っていること」、「原因となるストレス」、「背景としてどのような問題があるのか」を探りながら、患者と医師が一緒に考えて行く。治療方法としては、遊びの中で自由に感情を表現出来るようにする「プレイセラピー」や、家族関係を調整する「家族療法」、集団の中での自己表現を目指す「集団療法」も実施している。薬物に関しては、上記と併用することもある。子どもに症状が起こる場合は、「元来の気質」、「生育環境」、「直近のストレス」のどれが主要テーマになるか、によって治療方法や対応は変わってくる。
松谷院長は地域の保健福祉センター、子育て支援センター、児童相談所、教育相談センターとも常時連携をとっている。学校との連携は特に大事で、親の了承を得て担任の先生に来てもらうこともある。学校という、ともすれば閉鎖的になりがちな組織の中では外部の「医療」が関わることは歓迎されないこともあるが、担任の先生の協力を要請して、養護教諭やスクールカウンセラーとも密接なネットワークを作って子どもの気持ちを理解して共有することを目指す。月に一度は、これらの人々に集まってもらって勉強会やケーススタディを実施し、連携を深める。
ネットワークは広範囲に及び、電車で1時間近くも掛かる学校の養護教諭にたまたま非常に熱心な先生が居て、この学校からは、全校の約5%もの子どもが来院しているそうだ。その学校に特に問題がある、というのではなく、熱心な人が関与すれば、潜在的にはそれだけの患者数が居るということだと思われる。
「統合失調症が本当の意味で治るか、治らないか(生きる上での基本的な安心感を持つことができるかどうかということ)は10歳が臨界点。幻覚妄想が出た時には、子どもの側から言うともうすでに限界を超えて普通には戻れないという場合もある。早い状態でキャッチする必要がある」とする学説もある。他の疾患にも増して、早期発見、早期治療が不可欠な分野である。
松谷院長が勤めていた中核病院には、多くの思春期児童が入院治療していた。患者の病歴を診ると、早い段階から本人は症状を訴えていたが、殆どの場合はそれが見過ごされていた。たまたまかかった専門家も「大丈夫」と言ってしまった。親もその時は対応したが一過性で終わった。そして子どもはより心を閉ざしてしまった。もっと早くに関わることができればと残念に思うケースが実に多かったそうである。
「小学生が安心して掛かることができるメンタルクリニックが必要」という思いで、松谷院長は開業した。中核病院を辞めて、病棟を持たなくなったので「外」(地域)に展開しやすくなった。学校、家庭、医療という3つの機能を繋いで、患者が今どういう段階にあるか、今解決しなくてはいけないテーマは何か、を共有することによりお互いが果たすべき役割が定義され、連携がとれるようになる。松谷院長が果たす役割は、ネットワークのコーディネーターでもある。実際学校に赴いて、その学校特有の空気を感じたい、ということであるが、昨今は多忙で残念ながらそこまで手が回らない、と語ってくれた。
「子どもは未来」と松谷院長は語る。子育ては基本的には大変なことであり、以前は地域全体が関わっていたが、今は替わるものが求められている。「ひとりひとりのための治療」(患者ひとりひとりが生きて来た道程を大切にしながら、マニュアル的な治癒効果の高い薬に頼るだけではない治療)、「『家族』とともに歩む治療」(家族の成長を応援しながら、家族ともに歩んで行く治療)、「子育支援」(地域の専門機関と連携を密にしながら、顔の見える『子育支援ネットワーク』作りをコーディネートする)という3つの理念を掲げ、「ファミリーメンタルクリニックまつたに」では、新しい子育インフラ作りを目指している。
★掲載 月間シニアビジネスマーケット2006年6月号
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